インテル® C++ コンパイラー 18.0 デベロッパー・ガイドおよびリファレンス
引数が関数へ渡される方法や関数から値が返される方法について規則を規定する多くの呼び出し規約があります。
次の表は、Windows* でサポートされている呼び出し規約をまとめたものです。
呼び出し規約 |
コンパイラー・オプション |
説明 |
---|---|---|
__cdecl |
/Gd |
C/C++ プログラムのデフォルトの呼び出し規約。変数引数を使用する関数で指定できます。 |
__clrcall |
なし |
関数がマネージドコードからのみ呼び出されるように指定する呼び出し規約です。 |
__stdcall |
/Gz |
Win32 API 関数に使用される標準呼び出し規約です。 |
__fastcall |
/Gr |
引数がスタックではなく、レジスターで渡されるように指定する高速な呼び出し規約です。 |
__regcall |
/Qregcall は、宣言で別の呼び出し規約が指定されない限り、コンパイル時に __regcall が関数のデフォルトの呼び出し規約であることを指定します。 |
インテル® C++ コンパイラーの呼び出し規約で、レジスターでできる限り多くの引数を渡せるように指定します。同様に、__regcall は値を返す際、可能な限りレジスターを使用します。この呼び出し規約は、変数引数を使用する関数で指定された場合は無視されます。 インテル互換のベクトル関数 ABI の詳細については、「Vector (SIMD) Function ABI」(https://software.intel.com/en-us/articles/vector-simd-function-abi (英語)) を参照してください。 GCC ベクトル関数 ABI の詳細については、sourceware.org の GLIBC wiki にある Libmvec - vector math library ドキュメント (英語) を参照してください。 |
__thiscall |
なし |
変数引数を使用しない C++ メンバー関数により使用されるデフォルトの呼び出し規約です。 |
__vectorcall |
/Gv |
ベクトル引数を渡す関数がベクトルレジスターを使用するように指定する呼び出し規約です。 |
次の表は、Linux* と macOS* でサポートされている呼び出し規約をまとめたものです。
呼び出し規約 |
コンパイラー・オプション |
説明 |
---|---|---|
__attribute((cdecl)) |
none |
C/C++ プログラムのデフォルトの呼び出し規約。変数引数を使用する関数で指定できます。 |
__attribute((stdcall)) |
none |
引数がスタックで渡されるように指定する呼び出し規約です。変数引数を使用する関数では指定できません。 |
__attribute((regparm (number))) |
なし |
IA-32 アーキテクチャー・ベースのシステムでは regparm 属性により、コンパイラーは最大 number で指定される個数の引数をスタックではなく、EAX、EDX、ECX レジスターで渡します。可変長引数をとる関数は、引き続きスタック上ですべての引数を渡します。 |
__attribute__((regcall)) |
-regcall は、宣言で別の呼び出し規約が指定されない限り、コンパイル時に __regcall が関数のデフォルトの呼び出し規約であることを指定します。 |
インテル® C++ コンパイラーの呼び出し規約で、レジスターでできる限り多くの引数を渡せるように指定します。同様に、__regcall は値を返す際、可能な限りレジスターを使用します。この呼び出し規約は、変数引数を使用する関数で指定された場合は無視されます。 |
__regcall 呼び出し規約はインテル® C++ コンパイラー特有のものです。次の点に注意してください。
__regcall を使用するには、関数の宣言の前にキーワードを配置してください。次に例を示します。
例 |
---|
__regcall int foo (int i, int j); |
// Linux* および macOS* __attribute__((regcall)) foo (int I, int j); |
__regcall のすべてのレジスターは、コンパイラーにより予約されているレジスターを除き、引数の引き渡し/値の返しに使用できます。次の表は、コンパイルのデフォルト ABI に応じた各レジスタークラスで利用可能なレジスターです。レジスターは表にリストされた順番で使用されます。
レジスタークラス/アーキテクチャー |
IA-32 アーキテクチャー |
インテル® 64 アーキテクチャー |
---|---|---|
GPR |
EAX、ECX、EDX、EDI、ESI |
RAX、RCX、RDX、RDI、RSI、R8、R9、R10、R11、R12、R14、R15 |
FP |
ST0 |
ST0 |
MMX |
なし |
なし |
XMM |
XMM0 - XMM7 |
XMM0 - XMM15 |
YMM |
YMM0 - YMM7 |
YMM0 - YMM15 |
ZMM |
ZMM0 - ZMM7 |
ZMM0 - YMM15 |
__regcall の引数や戻り値はデータ型に基づいて分類され、次の表にあるように、そのクラスのレジスターで渡されます。
型 (符号なし/符号付きの両方の型) |
IA-32 アーキテクチャー |
インテル® 64 アーキテクチャー |
---|---|---|
bool、char、int、enum、_Decimal32、long、pointer |
GPR |
GPR |
short、__mmask{8,16,32,64} |
GPR |
GPR |
long long、__int64 |
「構造体の分類規則」を参照してください。 |
GPR |
_Decimal64 |
XMM |
GPR |
long double |
FP |
FP |
float、double、float128、_Decimal128 |
XMM |
XMM |
__m128、__m128i、__m128d |
XMM |
XMM |
__m256、__m256i、__m256d |
YMM |
YMM |
__m512、__m512i、__m512d |
ZMM |
ZMM |
complex type、struct、union |
「構造体の分類規則」を参照してください。 |
「構造体の分類規則」を参照してください。 |
注構造体には、GPR クラスの分類が使用されます。 |
||
注IA-32 アーキテクチャー・ベースのシステムでは、これらの 64 ビット整数型 (long long, __int64) は、2 つの 32 ビット整数フィールドから成る構造体として実装されているかのように、GPR クラスに分類され、2 個のレジスターで渡されます。 |
関連クラスのレジスターよりもレジスターのサイズが小さい型は、下位のレジスターで渡されます。例えば、float は XMM レジスターの下位 4 バイトで渡されます。
構造体/共用体および複素数型は、次の例外を除いて x86_64 ABI と同じように分類されます。
構造体の全体のサイズの制限はありません。
基本型のレジスタークラスは「データ型の分類」を参照してください。
IA-32 アーキテクチャー・ベース・システムの場合、4 バイトで分類されます。その他のアーキテクチャー・ベース・システムの場合、8 バイトで分類されます。
「データ型の分類」と「構造体の分類規則」で説明されている分類の後、__regcall 引数と戻り値は利用可能なレジスターで指定されたレジスターに配置されるか、または次の説明に従ってメモリーに配置されます。
データ型の値の各チャンク (インテル® 64 アーキテクチャー・ベースのシステムの場合は 8 バイト、IA-32 アーキテクチャー・ベースのシステムの場合は 4 バイト) にレジスタークラスが割り当てられます。利用可能なレジスターからレジスターを十分利用できる場合には、値全体がレジスターに渡されます。そうでない場合は、値はスタックを使用して渡されます。
1 つまたは複数のレジスタークラスが使用される場合、利用可能なレジスターの表のこれらのクラスのレジスターが表の順番のとおりに使用されます。
必要なレジスタークラスのいずれかで利用可能なレジスターがない場合は、値全体がスタックに配置されます。
次のレジスターは、引数渡しや値の戻しで使用されない限り、__regcall 呼び出し間でその値を保持します。
レジスタークラス/ABI |
IA-32 アーキテクチャー |
インテル® 64 アーキテクチャー |
---|---|---|
GPR |
ESI、EDI、EBX、EBP、ESP |
Windows*: R10 - R15、RBX、RBP、RSP Linux*: R12 - R15、RBX、RBP、RSP |
FP |
なし |
なし |
MMX |
なし |
なし |
XMM |
XMM4 - XMM7 |
XMM8 - XMM15 |
YMM |
XMM4 - XMM7 |
XMM8 - XMM15 |
ZMM |
XMM4 - XMM7 |
XMM8 - XMM15 |
その他のレジスターでは、この呼び出しで値は保持されません。
__regcall とともに使用される関数名には修飾子が付きます。従来のマングル化が発生する前に __regcall<n>__ が先頭に追加されます。例えば、foo 関数には、__regcall3__foo のような修飾子が付きます。これにより、異なる呼び出し規約に従う名前に不適切にリンクされないようにすると同時に、foo であらゆる操作 (デバッガーへのブレークポイントの設定など) を行うことができます。修飾子の <n> 部分は、有効な _regcall のバージョンを示します (現在のリビジョン番号は 3 です)。